手順3 問題点の背後要因の探索
 抽出した問題点に潜む背後要因やエラーの誘発要因を推定・探索しながら、背後要因関連図を作成します。

1.最重要な問題から背後要因を探る
 抽出されているいくつかの問題点の中から、最も重要と思われるものを1つだけ選び出します。当然のことですが、最初に取り上げるべきもっとも重要な問題点は、このインシデントそのもののこと、つまり最終的に起こった結果になります。

2.背後要因の推定
 最初に選んだ問題点の背後要因を推定し、付箋紙に書き出して、右側に貼り付けます。背後要因として複数推定される場合、右側に列をそろえて上下に並べます。先に抽出された問題点をよく見ると、それらはインシデントの背後要因として考えられ、「問題点」の欄から「背後要因」の欄へと移動できるものがあります。その場合、該当の問題点(付箋紙)を取り外して、背後要因としてそのまま貼り付けます(写真の赤色点線)。背後要因には、さらに背後要因があることがほとんどであり、それらをすべて付箋紙に書き出し、次第に右や上に階層的に並べて貼り付けます。


3.■背後要因の関連付けを行なう
 並べられた背後要因をよく観察して、背後要因間の階層構造を整理し、矢印で結びます。矢印の向きは背後要因の探索の方向とは反対向きに書きます。この矢印は因果関係を表しているからです。



<背後要因探索のポイント1>
■最終事象からスタートすることが重要!
 大事なことは、「最終的にどのような害が(患者に)あったのか」の背後要因をきちん分析することです。例えば、「検査のため、延食の患者に間違ってインシュリンを投与して、低血糖症状が発生した」という事故があったとすると、「間違ってインシュリンを投与した」ことに分析者の注意が奪われ、そこから背後要因を探索しがちですが、最終的な害である「低血糖症状が発生した」ことから背後要因を探索することが重要です。

■できるだけ論理的に考える
 上記の「患者に低血糖症状が発生した」事例の場合、「インシュリンを投与した」ことと、「患者が食事をしていなかった」ことの2つの条件が揃って始めて成立します。つまり、間違ってインシュリンを投与しても、もし患者が食事をしていれば事故は発生しないわけです。このように論理的に考えて、「なぜ→なぜ・・」と背後要因を探索します。その際、論理の飛躍は要注意です。背後要因を逆にたどることで、論理の飛躍を防ぐことができます。関連線の向きは、背後要因から問題点に向かって引きます(写真)。この事例の場合、さらに「発見が遅れたこと」も考えられます。

<背後要因探索のポイント2>
■視座を変えてみる
 当事者になったつもりで考えると、その当事者がなぜそのような行動をとったのかわかる場合もあります。それぞれの関係者の視座から見ることが重要です。

■背後要因は複数ある
 ある問題点の背後要因には、さらにそれに対する複数の背後要因が存在しています。できる限り多くの背後要因を挙げて下さい。P-mSHELLの各要素に当てはめながら探索すると新たな要因を発見できます。

■Root Cause(根本原因)にこだわると・・・
 Root Cause(根本原因)という言葉があります。事故には真の原因があり、それを探り出すことで、根本的な対策が可能となり事故がなくなると考えがちで魅力的な言葉です。しかし、突き詰めて考えると、この考え方は、間違いであることがわかります。背後要因は末広がりの構造となります。そもそも国の医療安全政策が問題だとか、医師の性格がいい加減だったとか、解決が困難な方向に広がっていくことがあります。国家レベルや遺伝子レベルのことまでさかのぼっても意味がありません。根本原因の推定は、その院内で対策が取れるくらいのレベルで止めておきましょう。

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